東京高等裁判所 昭和38年(ツ)63号 判決
賃貸人(所有者)の承諾を得た転貸借であつても、賃貸人と転借人との間に直接賃貸借契約を生ずるものではなく、転借人は賃借人の有する賃借権に基いて、賃借物を使用収益することのできる債権関係に過ぎないのであるから、賃貸借契約の期間の満了賃借人の債務不履行による契約解除による賃貸借の終了又は賃借人が賃貸人の承諾を得て賃借物を第三者に譲渡し、賃借人としての地位を離脱した場合等には、転借人は賃借物を使用収益し得る基礎を失うに至るものであり、転借人がいぜんとして、その物を占有する場合においては、賃貸人はその所有権に基いて、転借人に対しこれが返還を請求し得るものと解しなければならない。但し、賃貸人と賃借人の合意で、賃貸借を消滅させ、正当に成立した転借人の利益を害することが信義則上許されない等特段の事由がある場合においては、右賃貸借の消滅を転借人に対し主張することができないのはもちろんである。
原判決の確定した事実によれば、訴外森田きくが訴外村雨和子から同人所有の本件土地を含む三十坪の土地を賃借していたところ、被上告人が森田きくから本件土地を村雨和子の承諾を得て転借し、上告人が昭和三十四年十月十二日に森田きくから本件土地に対する賃借権を譲渡を受けたというのであり、原審は以上の事実関係においては、村雨和子は被上告人に対し本件土地の明渡を請求する権利を持たず、その他村雨和子の被上告人に対する本件土地明渡請求権の存在について上告人の主張がないから、村雨和子の右明渡請求権の代位行使を原因とする上告人の本訴請求は代位権限の有無にかかわらず理由がない、との判断をなしている。しかしながら、原判決の引用する第一審判決の事審摘示によれば、上告人は、村雨和子が森田と上告人間の本件土地の賃借権の譲渡を承諾したとの事実を主張していることが明かであり、また、本件口頭弁論の全趣旨によれば、上告人は森田と被上告人間になされた本件土地の転貸借についての村雨の承諾は、森田との賃貸借の存続期間内に限つてなされたものである旨の主張をもなしているものと認め得られないものではない。そうであれば、右上告人の主張事実が認められるにおいては、他に特別の事由がないかぎり、森田と上告人間に適法になされた本件土地の賃借権の譲渡によつて、被上告人の有する転借権はその基礎を失い、消滅するに至るものと解しなければならない筋合である。それなのに、原審が右上告人の主張事実及び他の特段の事由の存在についてなんら判断することなく、上記のように、まんぜんと村雨は被上告人に対し本件土地の明渡を請求する権利を有しないとして上告人の主張を一蹴したのは、上告人の主張に対する判断を遺脱し、審理不尽理由不備の違法があることを免れない。右違法は、原判決に影響を及ぼすことが明らかであるから、原判決は全部破毀を免れず、論旨はその理由がある。
(村松 杉山 山本)